ご冗談でしょう、ファインマンさん

ご冗談でしょう、ファインマンさん 上・下

20世紀の物理学界のスター、ファインマンの自伝

世界的な物理学者を知っているかぎり挙げろというアンケートを日本で行ったら、おそらくアインシュタインが断トツの1位になるだろう。ファインマンははたして何位になるのか。物理学科の学生に好きな物理学者を好きなだけ挙げろというアンケートをしたら、ファインマンは1位の可能性もあるだろう。今では知る人ぞ知るという物理学者だと思う。それではもったいない!この本は物理学のことはほとんど触れられておらず、誰でも読むことが出来る。

物理のことはまったく知らなくても問題ない。実際に二人の文系の大学生のアルバイトに「ここ、面白いから読んでごらん」と上巻の方を貸したことがあるが、「全部読みたいのでもう少し貸してください」と言われたくらいだ。もっともその二人、どうも当時つきあっていたという噂もあったが…。ん?もう一人、女の子に貸したような気も…。まあいいか。今から7、8年位前の話だ。記憶あやふや。

この本が出版されたのがアメリカでは1985年、日本では1986年で、もう少しで30年になる。私が読んだのも80年代後半から90年代前半にかけてだったと思う。就職を決める際にもこの本が、私の背中を後押ししてくれた(それがどこかは秘密)。そういう思い出深い本でもある。もちろん、今でもその影響を受けている。

初めて読んだとき、抱腹絶倒だったのが下巻の「ディラック方程式を解いていただきたいのですが」。ファインマンが日本に来たときのエピソードが紹介されている。これでファインマンを好きにならないのなら、あなたは一生ファインマンに縁がない(物理専攻でない場合)。まずそこを立ち読みしてみてほしい。ほんの20ページだ。

今すぐネットで買おうかどうか判断したい人のために、訳者のあとがきを一部引用しておこう。これで心がまったく動かないなら、残念ながら、やはりあなたはファインマンに縁がない人だろう。

ファインマン先生とお知りあいになったのは、二十年近くも前の保育園の親の集いである。(中略)その表現が普通の人と違うため、ふざけた人間だと思う人もいるらしいが、子供であろうが素人であろうが決してばかにせず、いつも対等な人間として話をするということが、本当にできる人なのである。

もう一つ、続編ともいうべき『困ります、ファインマンさん』の訳者あとがきも引用しておこう。

先生の生涯は未知のものへの津々たる興味で貫かれていたように思う。教育用のテレビのインタビューの中で、「僕は自分の無知を認めることを決して怖れない。いろいろなことに間違った答を作り出すより、むしろ知らないことは知らないと認め、それを探究することの方が意味がある」と言っておられる。

ピンと来ないヒトは、もうここでさいならです。

実はこの本の魅力を最大限引き出しているのが、この優れた翻訳で、彼の口調はイングリッシュではなく、ファイマニーズだという人さえいる(『ファインマン物理学』シリーズの訳者序より)ファインマンの言葉を生き生きと訳しているからだろう。今回、これを書くにあたって図書館から文庫本を借りてきたのだが、文庫版の訳者あとがきを読んで初めて知った。ドイツ、フランス、韓国ではあまり好意的な反響がなかったと。

私が特に好きなのは、上で紹介したところ以外では、

  • 僕、僕、僕にやらせてくれ!
  • お偉いプロフェッサー
  • ただ聞くだけ?

だ。あんまり書くとネタばれになってしまって面白くないから、ほんの少しだけ。僕、僕、僕にやらせてくれ!の最後の3行を。

催眠術をかけられるというのはなかなか面白いものだ。僕たちは「できるけどやらないだけのことさ」といつも自分に言いきかせているわけだが、これは「できない」というのを別な言葉で言っているだけのことだ。

こういう箴言めいたことはほとんどないのだが、この最後の一文は、私にとっては強烈な言葉となった。

お偉いプロフェッサーは、読むたびにホッとする。そして、ごく最近の私の関心のありかからは、外発的動機と内発的動機について考えさせるものとなっている。

ただ聞くだけ?は、一度試してみたいと思いつつ、もう20年以上の歳月がたっている…。

ファインマンについて

念のために触れておくと、ファインマンは日本の朝永振一郎、シュウィンガーとともに繰り込み理論(この理論の命名は朝永)でノーベル賞を受賞している。でも、ノーベル賞物理学者だなんてことはどうでもよくて(ノーベル賞もらってるから話題にもなるので、本当はどうでもよくないのだが)、そんなとこじゃないんだな、ファインマンの魅力は。

一応、多少物理学と絡めて紹介するのに、もういっちょ引用をお許し願いたい。ブルーバックスの『アインシュタインを超える』から(この本についてもいつか書きたいと思っている。一つだけ触れておくと、この本の初版の第1刷を昭和63年の春に買ったが、そのときこれを読んで南部陽一郎は絶対にノーベル賞をもらうと確信した)。

 1940年代に入ると、ファインマンが金庫破りの技術を駆使し、紙切れへの奇妙ななぐり書きによって、電子が互いに衝突するとき何が起きるかを図示した。なぐり書きの一つ一つが実は膨大な量の退屈な数学の速記的なまとめであって、ファインマンはこれによって何百ページもの数式---通常何ヶ月もの骨の折れる作業を必要とする---を圧縮し、やっかいな無限を抽出することが出来た。この数学的ななぐり書きによって、彼は複雑な数学の森に迷った人々よりも先を見ることが出来たのである。
 当然ながらこの「ファインマン・ダイアグラム」は物理学界における論争の源になり、これをどう扱うかで意見はまっぷたつに割れた。ファインマンはこの図形の法則性を導き出すことができなかったので、反対する人々は彼の図が馬鹿げているとか、またいつもの悪ふざけだときめつけたりした。

下線  は私がつけたもの。「またいつもの悪ふざけ」(爆)。ファインマン・ダイアグラムについては、同じくブルーバックスの南部陽一郎著『クォーク』にもファインマンの紹介とともに出ているが、ここでは断腸の思いで割愛しよう。なお、文中「金庫破り」の記載があるが、このエピソードも上巻に出ている。

購入・各種データ

画像も文字もアマゾンにリンクを張ってあります。『困ります、ファインマンさん』にもリンク張っちゃいました。

ちなみに、文庫本化される前は、上・下ではなく1・2だった(正しくはⅠ・Ⅱだが、これ、機種によっては読めないはず)。さらにタイトルも『ご冗談でしょう、ファインマンさん』ではなく、『「ご冗談でしょう、ファインマンさん」』だった。ちょっとこだわってます、私が。


ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)
困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

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初回更新:2013-08-11 (日) 23:17:49
最終更新:2014-06-21 (土) 09:59:34
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